夏季恒例 納涼話し「出張奇談」
人間は、頭と体と心とスピリチュアルの四つ巴。
今回は、まだまだ暑い夏に涼を感じて頂ければ幸いというスピリチュアルのお話しです。
指折り数えたら、2023年で当院は通算26周年を迎えます。開業当初、知り合いの社長から
「お前、5年頑張ってみろ。5年続けば人は認めてくれる」
と言われました。当の社長は13年で倒産し、スーパーマーケットで働いてました。言われた私が26年目とは皮肉なものです。
今回駆け出しの頃、整体の出張で経験を積み始めた時のお話しです。
まだ整体の学校に通っていた頃ですからもう30年以上前になるのですね。私には昨日のことのように覚えています。
知り合いのカラオケの先生のご紹介で、ある40代の女性をクライアントとして紹介して頂きました。まだまだ臨床例が少ないので、安価で安全性を踏まえた施術を心掛けました。
彼女をAさんと呼びます。Aさんは少し神経症があり、時折、首が左右に揺れることがありました。何度がお呼ばれするうちに、不思議な話しを聞かされました。
布団の上に髪の毛が落ちていたので、拾い集めていくと、まるで雪ダルマのように毛糸の玉ならぬ髪の毛玉が出来上がるというのです。誰もいないトイレでガチャガチャと音がしたかと思うと、トイレの部品が壊れていたとか。親の命日の日に、大きい石が玄関に置いてあったり。これは子供の悪戯とも取れないことはありません。しかし、レコード(当時はまだ聞いている人がいた)の歌詞がわずかですが、変わってしまったことは説明がつきません。確か倍賞千恵子さんのレコードでした。歌詞を見ながら音声を聴いてみてくれというので、試聴してみました。確かにズレがある。買った当初は歌詞の通りで、滑舌の良い倍賞さんが間違えるわけはないとAさんは力説します。お会いするたびに不思議な話しを聞かされたものです。精神科医やカウンセラーさんなら、幻覚・幻聴、思い込みのクライアントと診断されるでしようね。
そんなAさんから友人のBさん(同じく女性)の所へも出張に行ってほしいと頼まれました。生活保護を受けている人なので、私がお金を出しますから当のBさんには黙っていてと言われました。Aさんの思いやりには頭が下がりました。
光栄に存じ、早速Bさん宅にお伺いしました。ところが、人は同じ周波数でご縁ができるもので、BさんはAさんに輪をかけて不思議現象の起きる人でした。外観は明るいアパートの一室でしたが、更に不思議な体験をしました。
Bさんは当時精神分裂症(現在の統合失調症)を患っていました。眼は斜視。レントゲン検査で異常が無いのに首が垂れ下がっている。悪い言い方をすると、首吊り自殺をした人の伸びた首のようでした。外出のときは乳母車を押し、手で顎を支えないと歩けない状態でした。親の勧めで、ある宗派のお守りが壁の上部に貼ってありました。Bさんは私に「異変は無いですか?」
と聞いてきました。
「なんのことですか?」
と聞き直すと自分がウッカリお守りに向かって足を向けたりすると、身体に大小の刀傷ができるのだと説明を受けました。Bさん獨協大学を卒業しており、元は勉強家で真面目な方でした。一般の人が抱くBさんのような症状は、知性の低さから由来するようにイメージすることでしょう。実際は違うのです。頭の回転も早いです。
いつしか病んでしまったBさん。なぜ、こんな病いに侵されたのか?ある精神科医が、統合失調症に関しては『霊障』だと述べました。もちろんカルテには書けません。しかし、海外にも『霊障』と書けない代わりに多重人格ではなく、本人以外の人格という記入例があるそうです。本人以外の声が24時間聴こえてくるのです。正常でいられません。
昔、川俣軍治という男が人を殺傷する事件を起こしました。捕まったとき、彼は下半身裸で象さんの鼻と共に包丁を振り回していました。これ自体、異常ですよね。逮捕の瞬間、あまりに見苦しいので警察官が用意していたブリーフを履かせました。
この男を直接的に狂わせたのは、覚醒剤が原因でした。彼は一日中聴こえてくる電波(彼は聴こえてくる声をこう表現しました)を消すために薬に手を出したと言います。犯罪を犯してしまった彼に同情は集まりませんが、もし精神科医が言ったように自分以外の声に翻弄されたとしたら恐ろしいことです。
Bさんに話しを戻しますと、緊張が抜けない方でした。手を挙げ、ストンと落とすという行為が、脱力ができないのです。当然、どんな施術でも浸透しません。まずは脱力に特化した運動だけで、一年近くかかりました。少し良い兆しが見えても底の知れない闇との対決は途方に暮れました。私も当時の能力の限り力を振り絞り、2時間掛けた施術が終わる時、倒れ込込みたくなるほど疲弊しました。
少しでもBさんが快方に向かってくれることが喜びでした。しかし、忘れもしない国家資格の試験の1週間前、Aさんから電話が入りました。Bさんが隣の男が襲いくるという妄想に駆られ、包丁を持って部屋で振り回しているというのです。試験のため、一秒も無駄にできない時でしたが、やむなくBさん宅に急ぎました。到着した時は大分落ち着いていましたが、観葉植物の鉢が倒れ、部屋中泥だらけでした。買ってきたお弁当をBさんに振る舞っている間、部屋を掃除しました。本人にかかりつけの病院に電話してもらったところ、受話器に向かい意味不明な言葉を話すBさんを見るにつれ、苦労が水疱と帰した無念を感じました。
入院するしかない状態なので身を引きました。
Bさんと通常のやり取りを思い出すと、蝕んでいるものが消えれば本人も周りもどれだけ安寧を得られたろうかと無力を感じました。後日、お世話になった先生に一連の話しをすると、自分が巻き込まれてしまうから関わるなと言われました。それでも何とかできないものかという気持ちを捨てることはできませんでした。
思えば、最初にして最強のクライアントに出会っていたわけです。積年の営業を迎え、あの時の怖さと無念を捨てず、前進を急がねばと再燃する心境でございます。

